My lovely person
07
5人がギャーギャーと騒いでるところから少し離れたところで手塚と跡部が話しをしていた。
「おう、手塚。あの越前ていう小娘やっぱり・・・。」
「ああ。俺も本人に確かめたわけではないから実際のところはわからないが、菊丸にさりげなく父親の名前を聞いておくように言った。
父親の名前は『越前南次郎』だそうだ。」
「やはりな。だが、どうする?あの伝説の海賊の娘だとわかれば他の海賊達に狙われかなねぇ。」
「確かにそうだ。俺もどこかかくまってくれそうな村に残そうかとも思ったのだがそれはリョーマが決めることだ。俺達の船に残るか、村
に残るか・・・。」
「そうだな。で、どうしてあの小娘は声が出ないんだ?」
「途中食料を少し分けてもらおうと寄った村が他の海賊に襲われていた。そこの村の唯一の生存者がリョーマだ。自分をかばってくれ
た従姉が目の前で殺され、他の村人が殺されていくのを見ていたそうだ。だから自己防衛として声をなくしたのだろうと大石が言ってい
た。俺達があの村に着く少し前に船長らしき男が今日の収穫はリョーマだと言っていた。だから恐らくリョーマだけ生き残ることができた
のだろう。」
「そうか。大体のことはわかった。あいつらもあの小娘のことが気に入ったみてぇだし。まぁいいさ。で、お前はどうなんだよ?」
「なに?」
「お前はあの小娘をどうしたいんだ?船に残したいのか?」
「それはリョーマが決めることだと、さっきも・・・。」
「俺はお前に聞いてるんだぜ。」
「・・・俺は女を乗せることはあまり歓迎できない・・・、だが・・・・。」
手塚がそこまで言った時、後ろでパリーンと何かが割れる音がした。
「・・・・・・リョーマ。」
そこにはリョーマが立っていて足元にはコップが割れていた。
[あ・・・・・、しゅ、周助と英二に手塚さんに飲み物持っていってくれって言われて・・・。ごめんなさい、話聞くつもりじゃなかったんだけど・
・・。]
そこまで言ってリョーマの目にはみるみる涙があふれてきた。
[ごめんなさい!]
そう言って出口のほうへ走りだした。
「リョーマ!!」
手塚もリョーマの後を追うように走りだそうとしたが、途中で跡部に振り返り、言った。
「跡部、先ほどの続きだが。俺は女を乗せることはあまり歓迎できない・・・、だがリョーマだけは別だ。」
そう言ってまた走りだした。跡部はそこ言葉に笑みを浮かべた。その時、部下が跡部の下へやってきた。
「船長!」
「何事だ?」
その部下はひどく慌てていた。
「大変です!耶麻武稀(やまぶき)がこちらのほうへ向かっています!」
「何?!」
「もうすぐそこまで来ています!!」
「ちっ。おいてめぇら!!」
跡部は舌打ちをすると全員に聞こえるように叫んだ。
「よく聞け!今耶麻武稀がこっちに向かっているとの報告があった!!すぐそこまで来てるそうだ!」
「何だって?!ていうか跡部!手塚とリョーマは?!」
跡部の叫びに不二が最初に反応した。
「手塚はあの小娘を泣かせて今追いかけてる。」
「「「何ぃ!!」」」
「手塚がおちびを泣かしたぁ!」
「手塚、やってくれるやないか。」
「くそくそ手塚め!」
「手塚、どうしてくれようか。」
「お前等ちょっと黙っとけ。いいか、今から耶麻武稀を迎え撃つ。だが、その前にあの2人を迎えにいくぞ。手塚がいないから俺が指揮を
とる。いいな!」
「「「「「イエッサー!!!」」」」」
リョーマは手塚に言われたことがショックで泣きながら走っていた。
(俺、やっぱりあそこにいちゃいけなかったんだ。手塚さんも情けで俺をおいてくれてたんだ。そんなのわかってたことじゃないか。なん
で涙がでるんだよ!)
涙で前が見えてなかったリョーマは前方にいる人影に気づかなかった為、その人物と激突してしまった。
「いたっ!!」
[っっ!!]
反動でリョーマは後ろにこけてしまった。
「ごめんねぇ〜。大丈夫?」
リョーマが激突した人物は倒れてしまったリョーマに手を伸ばした。
[あっ、ごめんなさい。]
「君、声が出ないの?」
その人物はリョーマが口を動かしたのに声が出ていないことに少し驚いているようだった。リョーマが首を縦に振ると少し考えてからに
っこり笑った。
「大丈夫!俺読唇術使えるし!で、大丈夫?」
[はい、大丈夫です。すいません、前見てなくて・・・。]
「俺は頑丈だから大丈夫だよ。はい、手・・・・・・君、もしかして泣いてる?」
[あっ・・・・。]
慌てて目をこすろうとしたリョーマの手をその人物はやんわりとめた。
「ダメだよ。こすっちゃ。」
その時、月明かりがリョーマの顔を照らした。
「っっ!君、すっごくかわいいね!!ていうか、綺麗!」
[えっ・・・・。]
「ねぇ、君の名前は・・・・・?」
そしてその人物がリョーマの両手を取ったとき、後ろからリョーマを呼ぶ声がした。
「リョーマ!!!」
リョーマはびくっとなって後ろを振り返った。そこには珍しく息を乱した手塚がいた。
[手塚さん・・・・・。]
「リョーマ、話の途中で逃げるな。俺はリョーマだけは別だと言いたかったんだ。」
[嘘・・・・・。]
「本当だ。俺は嘘をつけるほど器用な男じゃない。」
[手塚さん・・・・・ごめんなさい。勝手に勘違いして・・・。]
「いや、俺も言葉が少なかった。すまない。」
「お取り込みのところ悪いんだけど、君手塚君だね。」
「その声は千石・・・。」
「久しぶりだねー、手塚君。まさか君がこの子と知り合いだったなんてね。」
「リョーマを離せ。」
「この子リョーマって言うんだ。もしかして越前リョーマ?」
[なんで知ってるの?]
リョーマがびっくりして千石に聞いた。
「なんでだろうね?」
「リョーマ!こっちに来い!」
手塚に言われてリョーマは手塚のもとへ行こうと立ち上がったが千石に腕をつかまれて動けなくなってしまった。
[離して!!]
「嫌だね。」
[なんで?!]
「俺が君のこと気に入ったからだよ。」
「「「「「手塚!!!!」」」」」
その時、手塚の後ろから跡部たちがやってきた。
「「手塚!リョーマ/おちびは?!」
不二と菊丸が手塚に詰め寄って聞いた。
「あそこだ。」
手塚は冷静にリョーマと千石がいるほうを指した。
「「リョーマ/おちび!!!」」
[周助、英二・・・。」」
リョーマが泣きそうな声で2人の名前を呼ぶと千石がリョーマに話かけた。
「リョーマ君、俺、君のこと知ってるって言ったよね。」
[・・・・・。]
リョーマは無言で千石を睨んだ。
「あ、その前に俺、自己紹介してなかったね。いけない、いけない。俺は山賊、耶麻武稀の千石清澄。」
「千石さーん!!」
千石が名前を言い終わったと同時に千石を呼ぶ声が聞こえた。
「やぁ、室町君。ここだよ。」
「千石さん、勝手に行動しないでくださいよ。」
現れたのは室町と呼ばれた色黒でサングラスをかけた男だった。
「キャプテンが探してましたよ。」
「おーい、室町!!千石いたか?!」
「ここですよ!」
そこに残りの耶麻武稀のメンバーと思わしき者達が集まってきた。
「いた!千石!!お前勝手に行動するなよな!」
「ごっめーん、南ぃ。でも、そのお陰で越前リョーマ君ゲットしたよー。」
「越前?それ本当か?」
「うん。ほら。」
ぐいっとリョーマの腕を引っ張り耶麻武稀のメンバー達に見せた。
[・・・・・・・。]
「ああ、そうそう。俺が君のことなんで知ってるのかだっけ。南、征鷽と彪廷もいるけど話してもいい?」
「なんだ、手塚と跡部たちもいるのか。別にいいが。」
「さんきゅー。リョーマ君、俺達は君を狙ってた。」
[え・・・・。]

